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名古屋地方裁判所 平成2年(ワ)1461号 判決

原告

鈴木顯藏

右訴訟代理人弁護士

藏冨恒彦

原告

藏冨恒彦

右訴訟代理人弁護士

鈴木顯藏

原告両名訴訟代理人弁護士

伊神喜弘

浅井正

中野直輝

山田髙司

福井悦子

加藤毅

加藤洋一

竹内浩史

角谷晴重

柴田義朗

三木浩太郎

成瀬伸子

水口敞

竹之内明

杉野修平

柳沼八郎

中道武美

若松芳也

森川仁

上田國広

浅野元広

村岡啓一

桑城秀樹

後藤脩治

戸田裕三

加藤隆一郎

幣原廣

立岡亘

中村勝己

被告

右代表者法務大臣

後藤田正晴

右指定代理人

大圖玲子

外一名

被告

主文

一  被告国は、原告鈴木顯藏に対し、三万四六三〇円及びこれに対する昭和六三年一一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告国は、原告藏冨恒彦に対し、二三万円及びこれに対する昭和六三年一一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告国に対するその余の請求及び被告乙に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告らに生じた訴訟費用の三分の二と被告国に生じた訴訟費用を被告国の負担とし、原告らに生じたその余の訴訟費用と被告乙に生じた訴訟費用を原告らの負担とする。

五  この判決は、一、二項に限り仮に執行することができる。但し、被告国が、一項につき一万五〇〇〇円の、二項につき一〇万円の担保を供するときは、それぞれ右仮執行を免れることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告鈴木顯藏に対し、各自五五万四六三〇円及びうち五〇万四六三〇円に対し昭和六三年一一月二二日から、うち五万円に対し同月二五日から、いずれもその支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告藏冨恒彦に対し、各自五五万円及びうち五〇万円に対し昭和六三年一一月二二日から、うち五万円に対し同年一二月五日から、いずれもその支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら共通)

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告らは、名古屋弁護士会所属の弁護士で、原告鈴木顯藏(以下「原告鈴木」という。)は名古屋市東区内において法律事務所を設けていた者、原告藏冨恒彦(以下「原告藏冨」という。)は右事務所で執務する者であった。原告両名は、昭和六三年一一月一八日、訴外被疑者A(以下「訴外被疑者」という。)の逮捕監禁、傷害被疑事件(以下「本件被疑事件」という。)につき、訴外被疑者により弁護人に選任された。

(二)  当時津地方検察庁四日市支部(以下「地検支部」という。)の検察官検事であった被告乙(以下「被告乙」という。)は、本件被疑事件の捜査等の職務を行い、もって被告国の公権力の行使に当たった者である。

2  事実経過(被告乙の接見交通権侵害)

(一)(1) 訴外被疑者は昭和六三年一一月一六日、逮捕監禁、傷害容疑で逮捕され、同月一九日代用監獄たる三重県四日市南警察署(以下「南署」という。)の留置場に勾留された。

(2) 被告乙は、右勾留請求と同時に訴外被疑者と一般人との接見禁止の申立てをなし、右申立てが勾留決定と同時に容認されるや、直ちに南署署長に対し、被疑者と弁護人又は弁護人となろうとする者との接見又は書類若しくは物の授受に関し、捜査のため必要があるときは、その日時、場所及び時間を指定することがある旨の通知(以下「指定ありうる旨の通知」という。)をなし、被告乙の事前の了解なく訴外被疑者と弁護人らとの接見が実現できない状況を作出した。

(二) 原告藏冨は、同月二二日午前一〇時ころ、地検支部に電話し、検察事務官B(以下「B事務官」という。)に対して、同日午後における原告藏冨の訴外被疑者との接見及び二四日の勾留理由開示手続の後における原告両名の訴外被疑者との接見をそれぞれ申し出た。

しかしながら、B事務官は、警察及び被告乙の都合を聞くから待ってほしいといったまま、電話は保留音になり、そのまま切れた。

(三) 原告藏冨は、同日午前一一時ころ、地検支部に電話したが、応対者は、被告乙が取調べ中であるとして取り次がなかった。

(四) 原告藏冨は、同日午前一一時三〇分ころ、法律事務所事務員訴外葛谷昌靖(以下「訴外葛谷」という。)を介して、電話でB事務官に、右(二)記載のとおり訴外被疑者との二回にわたる接見を申し出るとともに、接見指定権を行使するならば以下のとおり希望時間において右指定権を行使するように申し出た。

① 二二日午後三時から五時までの間に、原告藏冨の接見を一五分間

② 二四日午後三時から五時までの間に、原告鈴木及び原告藏冨の接見を二〇分間

これに対して、B事務官は警察及び被告乙の都合を確認して、折り返し電話する旨約束した。

(五) 原告藏冨は、同日午後二時三〇分ころ、電話で、被告乙に対して、右(二)のとおり二回にわたる接見の申出をしたが、被告乙は、二二日の接見については警察が取調べ中なので接見させられず、二四日の接見については取調べの予定が立っていないので具体的な接見指定はできない旨述べた。

(六) 原告藏冨は、被告乙が、原告らの二二日及び二四日の二回の接見をいずれも拒否したことを理由として、時間的に救済可能な右二四日の接見拒否処分の取消しを求める準抗告申立の手続をとった(以下「第一準抗告手続」という。)。

(七) 被告乙は右第一準抗告手続申立ての動きを覚知し、二二日午後四時三〇分ころ、原告藏冨に対して、電話で、二四日の接見について、午後三時から四時までの間の二〇分間を指定する旨述べ、右準抗告に対する裁判所の判断を回避するため、右準抗告の申立てを取り下げるように要請した。

(八) 二二日午後五時二一分に、被告乙から原告藏冨に対して、二四日の接見指定書がファクシミリにより送付されたが、その内容は、接見できるのが原告藏冨のみであり、指定時間は二四日午後三時から午後四時までの間の二〇分であった。

(九) 原告藏冨は、右ファクシミリ送付の二二日午後五時二五分ころ、B事務官に対して、電話で、原告鈴木の接見について指定がない点について抗議したところ、B事務官は、原告両名から二四日の接見の申出があったことを認識していたので、被告乙にその旨確認したが、原告藏冨のみの接見指定で足りると指示されたので右指定書を作成した旨、及び被告乙は既に退庁した旨述べた。

(一〇)(1) 鈴木は、二二日午後六時三〇分ころ、B事務官に対して、電話で、接見指定を受けられなかったことについて抗議したところ、B事務官は、原告両名から二四日の接見の申出があったことは認識しているが、原告藏冨のみの指定となったのは被告乙の指示によるものであり、理由はわからない旨、及び被告乙は既に退庁した旨述べた。

(2) これに対して原告鈴木は、直ちに接見指定するように求めるとともに、何時までに指定するか問うたところ、B事務官は、被告乙不在のため困る、分からない等答えるのみであった。

(3) 原告鈴木が自己に対する接見指定を拒否する趣旨か問うたところ、B事務官は、結果的にそうなる旨答えた。

(4) 原告鈴木は、B事務官に対して、接見指定権を行使するか否か、何時指定するかが不明確であることを理由に、準抗告と国家賠償をする旨述べた。

(一一) 原告らは、原告鈴木に対する接見拒否処分につき、右処分の取消しを求める準抗告の申立ての手続をとった(以下「第二準抗告手続」という。)。

(一二)(1) 被告乙から、二二日午後一一時五九分、原告鈴木に対して、訴外被疑者との接見について同月二四日午後三時から午後四時までの間の一五分間とする接見指定書が、ファクシミリにより送付された。

(2) 右接見指定書の送付について原告らが知ったのは、同月二四日の午前であった。

3  被告乙の違法行為

(一) (原告藏冨の二二日午後の接見申出に対する被告乙の接見拒否処分の違法性)

被告乙による右接見拒否処分は、二二日午後二時三〇分ころになされているが、原告藏冨の接見希望時間帯は、将来の同日午後三時から五時までの間であるから、現に取調べ中であり、かつ引き続き取調べの予定があったとしても、その取調べが中断を許さぬほど緊急のものでない限り、弁護人との接見を実現するように、検察官は取調べを中断する等調整を図る義務があるというべきである。

右義務を懈怠した被告乙の接見拒否処分には、捜査の必要性がなく、右拒否処分は刑訴法三九条三項に違反し、違法である。

(二) (原告藏冨の二二日の接見申出に対する、被告乙の不作為による接見拒否処分の違法性)

原告藏冨は、二二日午前一〇時ころ及び同日午前一一時ころ、同日午後の訴外被疑者との接見をそれぞれ申し出、同日一一時三〇分ころ、同日午後三時から五時までの間に、一五分間の訴外被疑者との接見を申し出たにもかかわらず、被告乙はその旨認識しながら、原告藏冨に対して接見指定権を行使するか否か明確にしなかった。

これは積極的な接見指定権の行使ではないが、監獄の長に対する指定ありうる旨の通知の効果として、事実上原告藏冨が接見できない状態が具体化することからして、被告乙による不作為の接見拒否処分に他ならない。

原告藏冨が訴外被疑者との接見を希望した同日午後又は同日午後三時から五時までの接見時間帯が将来のことであるのにもかかわらず、同日午前一〇時ころ、同日午前一〇時三〇分ころ又は午前一一時三〇分ころになされた、被告乙による右不作為による接見拒否処分は、捜査の必要性がなく、刑訴法三九条三項に違反し、違法である。

(三) (原告藏冨の二二日の接見申出に対する、被告乙の接見拒否処分の遅滞の違法性)

原告藏冨は、同日午前一〇時ころ及び午前一一時ころそれぞれ、同日午後の訴外被疑者との接見を申し出、同日午前一一時三〇分ころ、同日午後三時から午後五時までの間に、一五分間の訴外被疑者との接見を申し出たにもかかわらず、被告乙はその旨認識しながら、原告藏冨に対し接見拒否処分をしたのは、同日午後二時三〇分ころであった。

接見交通権の保障の趣旨から、被告乙は、右申出に対し、接見指定権を行使するか否かについて、直ちに判断すべきであるのに、原告藏冨が接見を申し出た同日午前一〇時ころから接見拒否処分をした同日午後二時三〇分ころまで右判断をしなかったことは、連絡等の所要時間として合理的時間の範囲内を超えており、右判断の遅滞は違法である。

なお、右接見申出に対して、直ちに判断していれば、原告藏冨の申し出た接見希望時間帯は将来のことであり、捜査の必要性があったとは認められなかったはずであるから、違法な右判断遅滞と原告藏冨の接見交通権侵害との間には因果関係がある。

(四) (原告藏冨の二四日の接見申出に対する、被告乙の接見指定権行使の遅滞の違法性)

原告藏冨は、二二日午前一〇時ころ、二四日の勾留理由開示手続の後における訴外被疑者との接見を申し出、同日午前一〇時三〇分ころ及び一一時三〇分ころ、二四日午後三時から五時までの間の二〇分間の接見を申し出たにもかかわらず、被告乙は、右申出に対する判断をことさらに遅らせ、二二日午後四時三〇分ころ、ようやく、前記第一準抗告手続を開始した原告藏冨に対して、二四日午後三時から四時までの間、二〇分間の接見を指定した。

接見交通権の保障の趣旨から、被告乙は、右申出に対し、接見指定権を行使するか否かについて直ちに判断すべきであるのに、被告乙の右接見指定権の行使は連絡等の所要時間としての合理的時間の範囲内を超えており、原告藏冨に対する右指定の遅滞は違法である。

(五) (原告鈴木の二四日の接見の申出に対する、被告乙の不作為による接見拒否処分の違法性)

原告鈴木は、二二日午前一〇時ころ及び一一時ころ、原告藏冨を通じて、同日午前一一時三〇分ころ、訴外葛谷を介して、二四日の接見の申出をしたが、二二日午後五時二一分、原告藏冨に対してのみ接見指定がなされ、原告鈴木に対する接見指定はなかった。

これは原告鈴木に対する、被告乙の不作為による接見拒否処分であるが、原告鈴木にのみ接見を拒否した右処分には理由がなく違法である。

(六) (原告鈴木の二四日の接見申出に対する、被告乙の接見指定権行使の遅滞の違法性)

原告鈴木は、二二日午前一〇時ころ及び一一時ころ、原告藏冨を介して、同日午前一一時三〇分ころ、訴外葛谷を介して、二四日の接見の申出をしたが、被告乙が、右申出に対する接見指定をしたのは二二日午後一一時五九分であった。

接見交通権の保障の趣旨から、被告乙は、右申出に対し、接見指定権を行使するか否かについて、直ちに判断すべきであるのに、被告乙の右接見指定権の行使は連絡等の所要時間としての合理的時間の範囲内を超えており、原告鈴木に対する右指定の遅滞は違法である。

4  損害(接見交通権侵害による)

(一) (原告藏冨の損害)

原告藏冨は、被告乙による右違法行為により、二二日の接見を果たせず、弁護人にとって重要な接見交通権を侵害され、十分な弁護活動ができなかったこと、また二四日の接見指定が遅滞したことにより多大な精神的損害を被った。

これを慰謝するには五〇万円が相当である。

(二) (原告鈴木の損害)

(1) 原告鈴木は、被告乙が原告藏冨の二二日の接見を拒否したことにより、共同弁護活動が妨害されたこと、自らの二四日の接見指定が遅滞したことにより多大な精神的損害を被った。

これを慰謝するためには五〇万円が相当である。

(2) 第一準抗告の申立て及び取下げ並びに第二準抗告の申立てのために、交通費等の支出を余儀なくされた。

その金額は四六三〇円である。

5  事実経過(被告乙の侮辱行為)

(一) (原告鈴木に対して)

(1) 原告らは、昭和六三年一一月二四日、訴外被疑者の勾留について、主位的に勾留取消を、予備的に代用監獄たる南署から四日市拘置支所への移監を求める準抗告を、津地方裁判所四日市支部に申し立てた。

(2) 被告乙は、同月二五日午前一一時四五分ころから同五八分ころまで、原告鈴木に対して電話した際に、いきなり、暴力団員のごとき口調で「おう、誰だかわかるか。乙だ。お前あんなことして恥ずかしいと思わんか。申立書を持ってこい。」「勾留の取消はだなあ、裁判所も認めないと言っているんだ。お前わかるか。こんなことして、どうしようというのだ。だいたいでたらめばかり書いて、お前それでも法律を知っているのか。よく弁護士をやっているなあ。裁判所だってだめだと言っているんだぞ。」「お前何年弁護士をしている。俺が教えてやるからよく聞いていろ。六法全書を持ってこい。」「法律も知らない」「訳も分からず」「お前それでも弁護士か。」「弁護士だったら少しは勉強せよ。」「すぐ四日市へ来い。俺が教えてやる。」「馬鹿野郎、お前が何も知らんから俺が刑事訴訟法を教えてやろうと言っているんだ。すぐに来たらどうだ。教えてやるといっているんだ。」等と発言した。

(二) (原告藏冨に対して)

原告藏冨が、昭和六三年一二月五日、訴外被疑者との接見について、被告乙に対して電話した際、被告乙が、原告藏冨に、本件訴訟の請求金額の内訳について質問し、原告藏冨がこれに答えたところ、被告乙は、原告藏冨に対し、「何が慰謝料なったんや。」「ボーナスの時期やから、金がいるときやから。」「立替えよか。」「(準抗告は)法律上決まっておるんだから、あの結構なんですよ。」「そんな金(準抗告費用)まで払え言われたって困るがな。」「(原告らが準抗告したことは)報酬もらっているんだから当然でしょう。」「報酬はあんたに渡すわけじゃないんで。」「そんなショックを受けたのか。」「金に困っとんのかなあ。」等と発言した。

6  被告乙の違法行為(侮辱行為)

被告乙の右各発言は、原告らの訴外被疑者に対する弁護活動を誹謗、中傷するものであり、原告らの弁護士としての名誉を著しく傷つけ、原告らに対して、多大な精神的苦痛を与えた。

7  損害

原告らの右精神的苦痛を慰謝するには、それぞれ、五万円が相当である。

8  結論

よって、原告鈴木は、被告らに対し、被告乙については不法行為に基づいて、被告国については国家賠償法一条一項に基づいて、各自、五五万四六三〇円及びうち五〇万四六三〇円に対し昭和六三年一一月二二日以降、うち五万円に対し同月二五日以降、いずれも不法行為の日である右年月日からその支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、原告藏冨は、被告らに対し、被告乙については不法行為に基づいて、被告国については国家賠償法一条一項に基づいて、各自、五五万円及びうち五〇万円に対し昭和六三年一一月二二日以降、うち五万円に対し同年一二月五日から、いずれも不法行為の日である右年月日からその支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否及び反論(被告ら共通)

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)(1) 同2(一)(1)の事実は認める。

(2) 同2(一)(2)の事実のうち、被告乙が訴外被疑者の勾留請求とともに接見等禁止の請求をなし、右各請求に対し、裁判官が勾留状を発付し、接見等禁止決定をしたこと、被告乙が、同日南署署長に対し、指定ありうる旨の通知を発したことは認め、その余の事実は否認する。

(二) 同2(二)の事実のうち、原告藏冨から電話があったことは認め、その余の事実は否認する。

原告藏冨は、B事務官に対し、訴外被疑者との接見について被告乙と話がしたい旨述べたので、B事務官が被告乙に電話を取り次いだところ、電話は切れていたものである。

原告藏冨は、具体的に訴外被疑者との接見を申し出ておらず、日時の申出もしていない。原告鈴木の接見等の申出もなされていない。

(三) 同2(三)の事実は不知。

(四) 同2(四)の事実は否認する。

原告藏冨は、同日午後零時ころ、B事務官に対し、同日午後に原告藏冨、二四日午後は原告両名が、それぞれ訴外被疑者と接見したい旨の申出をなしたので、B事務官は、原告藏冨に対し、被告乙が不在なので、帰庁し次第その旨を伝えると述べたのみである。

B事務官は、同日午後一時過ぎころ、被告乙に対し、原告藏冨から同日午後に訴外被疑者と接見したい旨の申出があったことを伝えた。

被告乙は、当日の訴外被疑者の取調べ等の実施の有無、予定等を確認するため南署に電話したが、担当者不在のため取調べ計画等が不明であったため、被告乙は、同署警部補小林一男に対し、早急に担当者と連絡をとって、同担当者をして、自己に連絡をさせるように指示し、連絡を待った。

(五) 同2(五)の事実のうち、原告藏冨から電話があったことは認め、その余は否認する。

原告藏冨は、被告乙に対し、同日午後三時から五時までの間に訴外被疑者との接見、あるいは、二四日同時間における接見のいずれかを指定するように申し出た。

被告乙がすぐに南署に電話したところ、依然担当者不在で二二日及び二四日の取調べ予定等が分からないとのことであったため、担当者に連絡がとれ次第連絡するように南署に指示するとともに、被告乙は、原告藏冨に対しその旨伝え、連絡がつき次第回答する旨述べた。原告藏冨は、ファクシミリによる指定書送付を依頼し、被告乙は了承した。

被告乙は、南署からの連絡を待っていたが、電話がないので、同日午後三時三〇分ころ、南署に電話したところ、現在取調べ中で引き続き取調べの必要がある旨、二四日の接見は取調べに支障はない旨回答を受けた。

(六) 同2(六)の事実は不知。

(七) 同2(七)の事実のうち、被告乙が、第一準抗告申立ての動きがあることを知ったこと、及び同日午後四時三〇分ころ原告藏冨と電話で二四日の接見について協議したことは認めるが、その余は否認する。

被告乙は、原告藏冨に対し、二四日の接見時間は午後三時から四時までの間にしたい旨申し入れ、原告藏冨はこれに同意した。

(八) 同2(八)の事実は認める。

(九) 同2(九)の事実のうち、原告藏冨が、B事務官に対して、原告鈴木についての接見指定がなされていないことについて、電話で抗議したこと、B事務官が原告藏冨に対して、指定書は被告乙の指示に基づいて作成した旨、被告乙が既に退庁した旨述べたことは認め、その余の事実は否認する。

電話は午後六時過ぎにあった。

(一〇)(1) 同2(一〇)(1)の事実は認める。

(2) 同2(一〇)(2)の事実のうち、原告鈴木が、B事務官に対し、直ちに接見指定することを求め、何時接見指定をするのか問うたことは認めるが、その余は否認する。

B事務官は、原告鈴木に対し、できるだけ速やかに被告乙と連絡をとって伝える旨回答したのみである。

(3) 同2(一〇)(3)の事実のうち、原告鈴木が、自己に対する接見指定を拒否する趣旨か問うたことは認め、その余は否認する。

B事務官は、被告乙に聞かないと応えられない旨述べただけである。

(4) 同2(一〇)(4)の事実は否認する。

原告鈴木は、B事務官に対し、準抗告と国家賠償をする旨述べただけである。

(一一) 同2(一一)の事実は不知。

(一二) 同2(一二)(1)の事実は認める。

B事務官は、同日午後七時ころ、被告乙に対し、原告鈴木が接見指定を受けられなかったことについて抗議し、その理由を問うてきたこと、準抗告、損害賠償請求をすると言ったことを報告した。

被告乙は、原告鈴木の右電話をもって、原告鈴木の訴外被疑者との接見の申出とも解しうると考えて、同日午後一一時過ぎころ、B事務官に対し、原告鈴木と訴外被疑者との接見を、二四日午後三時から四時までの間の二〇分間と指定する旨の指定書を、ファクシミリで原告鈴木に送付するよう命じた。

ファクシミリで送付した指定書において接見時間を一五分間と指定した記載は誤記であり、被告乙は、二四日午後二時からの訴外被疑者に対する勾留理由開示手続の法廷で、二〇分間とする指定書と差し替え、交付した。

原告両名は、二四日午後三時から一六分間、南署において、訴外被疑者と接見した。

(2) 同2(一二)(2)の事実は不知。

3  同3は争う。

(一) (原告藏冨の二二日午後の接見申出に対する被告乙の接見拒否処分の違法の主張について)

被告乙が、原告藏冨の二二日午後の訴外被疑者との接見の申出に対し、これに応じられない旨の回答をしたのは、同日午後四時三〇分ころである。

右処分時には、司法警察職員が訴外被疑者を現に取り調べていたのであるから、捜査の必要があった。

(二) (原告藏冨の二二日の接見申出に対する被告乙の不作為による接見拒否処分の違法の主張について)

(1) 原告藏冨は、二二日午前一〇時ころ、B事務官に対し、電話で訴外被疑者との接見について被告乙と話し合いたい旨申し入れたにすぎず、具体的な接見の申出はなかった上、被告乙が電話器をとった際、既に電話が切れていた以上、改めて被告乙の方から原告藏冨に対し、電話で問い合わせる義務はないから、被告乙がそのまま放置したことをもって、原告藏冨に対し接見を拒否したと解することはできない。

(2) 原告藏冨が、同日午前一一時に被告乙に対して接見申出をしたことはないから、被告乙が、原告藏冨に何ら対応をとらなかったことをもって、原告藏冨の接見を拒否したと解することはできない。

(3) 原告藏冨がB事務官に電話したのは、同日午後零時ころである。

その際、被告乙は不在であり、B事務官は、原告藏冨の同日午後の訴外被疑者との接見申出を伝える旨述べたものであり、その時点で、接見について回答しなかったことをもって、被告乙による接見拒否処分があったと解することはできない。

(三) (原告藏冨の二二日の接見申出に対する被告乙の接見拒否処分の遅滞の違法の主張について)

原告藏冨が、B事務官に対し、同日午後の訴外被疑者との接見を申し出たのは、同日午後零時ころであり、被告乙が、右申出どおりの接見には応じられない旨の回答をなしたのは、午後四時三〇分ころである。

被告乙が、B事務官から右申出を聞いたのは、同日午後一時ころであり、すぐに南署に電話で取調べ予定等を問い合わせたものの、担当警察官不在のため、右回答を得たのは午後三時三〇分ころであった。そして被告乙は午後四時三〇分ころ、原告藏冨に対し、原告藏冨の同日午後の接見には応じられない旨回答したものである。

よって、接見申出に対する許否の判断を午後三時三〇分以前にしなかったことは、やむなき事情によるものであるから、判断の遅滞は違法でない。

午後四時三〇分ころまでに被告乙が申出どおりの接見に応じられない旨の回答をしなかったことは許容できないほどの遅滞とはいえず、違法ではない。

仮に三時三〇分ころに接見の許否につき回答したとしても、訴外被疑者は午後三時二〇分から同四時三五分まで(途中一〇分の中断あり)取調べ中のため、捜査の必要性があるから、接見指定の要件がある。よって被告乙が、午後四時三〇分ころまでに接見の許否につき回答しなかったことと、原告藏冨が二二日午後に接見できなかったこととの間には因果関係はない。

(四) (原告藏冨の二四日の接見申出に対する被告乙の接見指定権行使の遅滞の違法の主張について)

原告藏冨が接見の申出をしたのは、二二日午後零時ころであり、またその接見希望時間は、二四日午後三時から四時までの間であるから、二二日午後四時三〇分ころに指定したことをもって、接見指定処分を違法に遅滞したと解することはできない。

(五) (原告鈴木の二四日の接見の申出に対する被告乙の不作為による接見拒否処分の違法の主張について)

被告乙は、B事務官から、原告鈴木が原告藏冨とともに、二四日午後、訴外被疑者と接見したい旨の申出があったと報告を受けていなかった。

被告乙は、原告鈴木の右接見の申出について認識がなかったのだから、原告鈴木に対し、右接見を拒否する意思がなかったというべきである。

よって、被告乙が、原告鈴木に対し、接見指定をしなかったことをもって、原告鈴木に対する接見拒否処分があったと解することはできない。

(六) (原告鈴木の二四日の接見申出に対する被告乙の接見指定権行使の遅滞の違法の主張について)

原告鈴木が訴外被疑者との接見を申し出た希望時間は、二四日午後であるが、被告乙が、原告鈴木に対して接見指定したのは、二二日午後一一時五九分であり、原告鈴木の右接見希望時間との関係では、右接見指定処分が違法に遅滞したと解することはできない。

4(一)  同4(一)の事実は否認する。

(二)(1)  同4(二)(1)の事実は否認する。

(2) 同4(二)(2)の事実は不知。

5(一)(1) 同5(一)(1)の事実は認める。

(2) 同5(一)(2)の事実は否認する。

被告乙は、準抗告の法的根拠について原告鈴木に質問したにすぎず、その口調は普通であった。

(二)  同5(二)の事実は否認する。

被告乙は、本件訴訟の請求金額について、原告藏冨に質問し、それについて、普通の口調で、自己の見解を述べただけである。

6  同6の事実は否認する。

被告乙は、原告らに対して、それぞれ、普通の口調で話しており、原告らを誹謗、中傷していない。

7  同7の事実は否認する。

三  被告乙の主張

公権力の行使にあたる国の公務員が、その職務を行うにつき、故意又は過失によって、違法に他人に損害を与えた場合には、国がその被害者に対して賠償の責に任じ、公務員個人はその責を負わないものと解すべきことは、最高裁判所の判例とするところである(最三小判昭和三〇年四月一九日民集九巻五号五三四頁等)。従って、被告乙に対する請求は棄却されるべきである。

四  被告乙の主張に対する反論

公務員が、積極的加害意思に基づき、違法に、他人に損害を与えた本件においては、個人責任が免責されるべきではなく、被告乙の摘示する判例は、本件とは事案が異なる。

第三  証拠〈省略〉

理由

(本理由中の書証は、すべて成立又は原本の存在と成立につき争いがないか弁論の全趣旨によりこれを認めたものである。)

第一接見交通権侵害について

一請求原因1の事実(当事者)は当事者間に争いがない。

二訴外被疑者が昭和六三年一一月一六日、逮捕監禁、傷害容疑で逮捕されたこと、被告乙が、勾留請求とともに訴外被疑者と一般人との接見の禁止の申立をしたこと、裁判所において勾留決定と接見禁止の決定がなされたこと、同月一九日、代用監獄たる南署の留置場に勾留されたこと、被告乙が南署署長に対し指定ありうる旨の通知をなしたことは、当事者間に争いがない。

三原告両名による接見の申出とこれに対する被告乙等の対応について

1  証拠(〈書証番号略〉、証人B、証人葛谷昌靖、証人小川正行、原告藏冨本人、原告鈴木本人、被告乙本人)により認められる事実及び当事者間に争いのない事実は以下のとおりである。

(一) 訴外被疑者の逮捕監禁、傷害被疑事件は、すでに進行中の他の共犯者らの公判において、原告両名が弁護人に選任され、捜査段階の自白から否認に転じる者が出て、取調べ中に暴行が加えられたとの供述が出ていた。その後逮捕された訴外被疑者においては、逮捕当初から犯行を否認している状況にあった。

(二) 原告藏冨は、昭和六三年一一月二一日、原告鈴木から、二二日に訴外被疑者に二四日に予定されている勾留理由開示手続の説明をしがてら取調べの様子を聞くために接見してくること及び二四日に原告両名が訴外被疑者と接見できるように被告乙による接見指定を受けておくことを指示された。

(三) 原告藏冨は、昭和六三年一一月二二日午前一〇時ころ、地検支部に電話し、同支部支部長であった被告乙の立会い事務官であったB事務官に対して、二二日の午後に藏冨が、二四日の勾留理由開示手続の後に原告両名が、訴外被疑者と接見をしたい旨を告げた。B事務官は、電話を保留状態にして、隣室の被告乙のもとに行き、藏冨弁護士から電話が架かってきた旨を告げ、被告乙の指示により、自分の席に戻り電話を切り換えた。電話は保留状態がそのまま数分続いた後に切れた。

もっとも、証人Bの証言中には、原告藏冨が電話に出たB事務官に対して接見の希望日時を言いかけたところで遮った旨の証言部分があるが、前記証拠によれば、原告藏冨は電話が切れたにもかかわらず、直ちに電話を架け直すことをせず、待機していたことが認められ、右対応が、同人の接見の申出の内容がB事務官に伝わったことを前提としたものとみられることに照らして、右証言部分は採用できない。

また証人Bの証言中には、原告藏冨からの電話を被告乙に取り次ぐにあたり、電話の用件が接見に関するものであることを告げたか否かはっきり記憶していない旨の証言部分があるが、前記認定のとおりB事務官が被告乙の立会い事務官であったこと及びB事務官が原告藏冨から接見の申出を聞いていたことから、B事務官は被告乙に対して、少なくとも用件が接見に関するものであることは告げたものと推認できる。

(四) 原告藏冨は、同日午前一〇時四五分ころ、地検支部に電話を架けたが、対応した職員が、被告乙は別件で取調べ中であると告げたので、原告藏冨は「分かりました。」と言って電話を切った。

(五) 原告鈴木の法律事務所の事務員であった訴外葛谷は、原告藏冨の指示をうけ、同日正午前、地検支部に電話を架け、対応したB事務官に対して、二二日午後三時から午後五時までの間の一五分間に原告藏冨が、また二四日の勾留理由開示後の午後三時から午後五時までの間に二〇分間に原告両名が訴外被疑者と接見することを原告藏冨が申し込んだが、回答はどうなっているのか尋ねた。ところが、被告乙はすでに昼食のために庁外に出ていたことから、B事務官は右申出について回答できないので電話を架け直すようにといったが、訴外葛谷が、何回か電話をしているのに、また電話をしてくれというのは失礼ではないか、今度は地検支部の方から電話を架けるのが筋ではないかと言って承諾しなかったため、B事務官は右申出を被告乙に伝え回答すると応えた。

なお、証人Bの証言中には、回答するとは応えなかった旨の証言部分が存するが、原告藏冨及び訴外葛谷が午前一〇時ころから地検支部からの回答を待っていたにもかかわらず、電話は一切なかったため、同原告の指示を受けた訴外葛谷が被告乙の不在を理由に回答をしないB事務官に対し強く地検支部側から回答の電話をするべきであると要求したことが窺われることに照らして、採用できない。

(六) B事務官は、同日午後一時過ぎころ、庁内に戻ってきた被告乙に対して、二二日の午後に原告藏冨が、また二四日の午後に原告両名が訴外被疑者との接見を希望していることを伝えた。

被告乙は、右報告を受けて南署に電話を架けたところ、二二日午後に取調べを予定しているとの回答は得られたものの、訴外被疑者の取調べ担当の伊藤巡査部長が不在のため取調べ時間は判らず、南署に取調べ時間を伊藤巡査部長から聞いて連絡するように依頼した。

(七) 原告藏冨は、二二日午後二時三〇分ころ、午後五時までの執務時間内に南署で接見できる時間的限界となっても地検支部から回答がないので、再び地検支部に電話を架けた。原告藏冨は、電話に出た被告乙に対して、二二日の午後に原告藏冨が、二四日の勾留理由開示のあと原告藏冨両名が訴外被疑者と会いたい旨の接見の申出を行い、さらに二回の接見が捜査の都合上無理ならば、少なくとも二四日の接見のみでもよいと申し出た。被告乙は、警察の都合を聞くからしばらくしたら折り返し電話するようにいったが、原告藏冨はこれに応じず、被告乙は、原告藏冨にそのまま待つように言って警察に問い合わせの電話を架けた後、原告藏冨に対して、本日は警察が取調べ中なので会わせられず、二四日については取調べ予定が分からないので二四日の朝に電話して欲しい旨を告げた。原告藏冨は納得できない旨を述べたが、被告乙の回答は変わらなかった。

(八) 原告藏冨は、被告乙の前記午後二時三〇分ころの回答を二二日と二四日のいずれの接見も拒否したものと理解し、二二日の接見はもはや準抗告の手続をしても間にあわないものの時間的に救済可能な二四日の接見につき、被告乙による原告両名の接見拒否処分に対する準抗告申立てを行うことにして、その準備に着手した。右申立書は午後四時ころ完成し、訴外葛谷が、津地方裁判所四日市支部(以下「地裁支部」という。)に同申立書(〈書証番号略〉)を届けに向かった。同時に、原告藏冨は、地裁支部に電話を架け、刑事部の主任書記官であった訴外小川正行(以下「小川書記官」という。)に対して、準抗告の申立書が午後五時前後に届くので裁判官に残ってもらい即日中に判断して欲しい旨を告げた。

(九) 小川書記官は、午後四時三〇分ころ、地裁支部から歩いて一分ほどのところにある地検支部に送付すべき書類を持って行きがてら、B事務官に対して、訴外被疑者との接見禁止処分の件で準抗告の申立ての動きがある旨を知らせた。B事務官は、被告乙のもとに行き、小川書記官からの右情報を伝えた。

被告乙は、直ちに原告藏冨に対して電話を架け、同原告が準抗告の申立てをしたことを確認すると、二四日の接見指定書をファクシミリで送るから準抗告を取り下げるよう求め、同原告はこれに応じる旨を告げた。

(一〇) 原告藏冨は、被告乙の申入れにも拘らず午後五時になっても接見指定書が送付されないことから、そのころ地裁支部に到着した訴外葛谷に準抗告申立書を提出させた。他方、被告乙は、B事務官に接見指定書の作成を命じたが、その際、指定の相手方について、「藏冨弁護士だけだ。」といって、弁護人選任届の原告藏冨の名前の上に鉛筆で印を付けた。午後五時二一分になって、ファクシミリにより、被告乙から原告藏冨に対する二四日午後三時から午後四時の間の二〇分間を指定日時とする接見指定書が送付されたが、原告鈴木に対する指定書は送付されなかった。

(一一) 右指定書を受理するとすぐ原告藏冨は、地検支部に電話を架け、B事務官から、接見指定が被告乙の指示によって原告藏冨に対してのみなされたことを確認し、また被告乙がすでに退庁したことを聞いた。そこで、原告藏冨は、地裁支部に電話を架け、小川書記官に対し、第一準抗告手続の取下げと原告鈴木による準抗告申立てをする旨を告げた。

(一二) 原告鈴木は、二二日午後六時過ぎころ事務所に戻り、原告藏冨からこれまでの経緯の報告を受け、自ら地検支部に電話を架け、B事務官に対して、これまでの経緯を尋ね、二四日については原告両名による接見の申出があったこと、接見指定書が原告藏冨に対してのみ作成されたのは被告乙の指示に基づくものであることを確認した上で、早急に被告乙に連絡をとって原告鈴木に対する接見指定をするように求めた。しかしながらB事務官が明確な対応を示さなかったことから、原告鈴木は、準抗告申立と国家賠償請求をする旨を述べて電話を切った。

(一三) そこで、B事務官が、被告乙の官舎に電話を架け、同被告に原告鈴木からの電話の内容を報告したところ、同被告は、B事務官に対し、原告鈴木に官舎に電話するように伝えるよう指示した。しかし、B事務官は、被告乙の声が酒に酔っているように感じ、原告鈴木と円滑に話し合うことが困難であると考え、原告鈴木にその旨の連絡はしなかった。

(一四) 同日午後一一時ころ、被告乙は、原告鈴木に対する二四日の接見指定をする気になり、B事務官に対し、官舎まで接見指定書用紙を届けさせて署名し、原告藏冨に対する接見指定書と同じ内容の指定書を作成してファクシミリで原告鈴木に送付するように指示し、B事務官は、その指示に従ったが、接見時間を二〇分とすべきところを一五分と誤記した。同日午後一一時五九分、原告鈴木の事務所に、被告乙の原告鈴木に対する、接見時間を二四日午後三時から四時の間の一五分間と指定する接見指定書がファクシミリで送付されたが、既に原告鈴木の事務所には人は誰もいず、被告乙から原告鈴木へ連絡することもなかったため、右接見指定書が原告鈴木の事務所に送付されているのを原告鈴木が知ったのは、二四日の午前であった。

(一五) 同日午後二時ころ、訴外被疑者の勾留理由開示手続の行われる法廷において、原告鈴木に対する接見指定書につき、接見時間を二〇分とするものが交付された。その後、原告両名は、二四日午後三時から一六分間、南署において、訴外被疑者と接見した。

2  以上の認定事実に対し、被告乙本人は重要な点で異る供述をするけれども、これが措信し難いことは以下のとおりである。即ち、

(一) 被告乙は、前記1の(七)の二二日午後二時三〇分ころの原告藏冨とのやりとりの中で、同原告に対し、南署の訴外被疑者の取調べ担当者に二二日と二四日の取調べ予定を確認して連絡すると述べ、更に同日午後三時三〇分ころ、原告鈴木の法律事務所にいる原告藏冨に架電したが同原告は不在であったと供述する。しかしながら、先に認定したように原告藏冨が第一準抗告の起案の準備にかかったのは午後二時三〇分ころの電話を切って間もなくであり、午後三時三〇分ころは前記法律事務所内で起案中であり、不在であった事実はないことに照らせば、前記供述は信用することができない。

(二) 更に被告乙は、前記1の(九)の二二日の午後四時三〇分ころの原告藏冨に対する架電について、同原告の準抗告の動きは同日午後五時半前に地検支部を来訪した小川書記官から聞いて初めて知ったものであるから、前記午後四時三〇分ころ電話で原告藏冨に準抗告の取り下げ勧告などしていないと供述するけれども、先に認定したとおり小川書記官が地検支部を尋ねたのは午後四時三〇分ころであることに照らせば、右供述部分もたやすく措信しがたい。

(三) また被告乙は、原告鈴木から接見の申出のあることは二二日午後七時過ぎにB事務官から支部長官舎に原告鈴木から電話があったことを伝える連絡があった時まで全く知らなかった旨供述している。しかしながら既に認定した事実の経過、特に被告乙は二二日午後七時以降原告鈴木と直接連絡をとって接見の申出の意思や希望時間を確かめることが全くできなかったにもかかわらず、結局同日中に原告鈴木に対し二四日の接見指定書を送付していること及びB事務官に午後五時すぎに接見指定書を作成させるに際し特に藏冨弁護士のみである旨弁護人選任届に印をつけて指定していることに対比しても前記の被告乙の供述部分は信用することができない。

四接見交通権の侵害

1 接見指定権限の行使のあり方

弁護人又は弁護人となろうとする者と被疑者との接見交通権は、憲法上の保障に由来するものであり、刑訴法三九条三項による捜査機関のする接見又は書類若しくは物の授受の日時、場所及び時間の指定は、あくまでも必要やむを得ない例外的措置であって、右指定により被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限することは許されるべきではない。したがって、捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見の申出があったときは、原則としていつでも接見等の機会を与えなければならないのであり、これを認めると捜査の中断による支障が顕著な場合には、弁護人と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採るべきである(最高裁昭和五三年七月一〇日第一小法廷判決・民集三二巻五号八二〇頁)。そして、右速やかな接見等の実現のために、弁護人等から接見等の申出を受けた捜査機関は、直ちに、具体的指定要件の存否を調査して判断し、弁護人等ができるだけ速やかに接見等を開始することができ、かつ、その目的に応じた合理的な範囲内の時間を確保することができるように配慮した適切な処置を採るべきである。

このことは、指定ありうる旨の通知が警察署長あてになされている場合に弁護人等から捜査機関に対し、接見等を希望する日時、時間より前に予め接見等の日時の指定を求める申出があった場合であっても同様であると解すべきである。

2 原告藏冨の二二日午後の接見申出に対する被告乙の措置の違法性

検察官が所用のため不在の間に電話等で弁護人から接見の申出があり、右申出に対し速やかに回答ができなかった場合には、検察官は、所用が終了し次第接見指定の可否を申出人たる弁護人に折り返し連絡して伝えることが、接見交通権の重要性からすれば当然要請される措置であることは、いうまでもないところである。これを本件についてみるに、被告乙は、日頃から、接見の申出があった場合は、検察事務官には一切対応させず、すべて被告乙自らが直接応答することにし、その旨検察事務官等に指示していた一方で、被告乙の所用あるいは不在中に電話等で接見の申出があっても、再度申出人から電話をさせるように検察事務官等に指示し、被告乙の側からは原則として折り返し電話することはしていなかったことが認められる(証人B、被告乙本人)。そして、前記認定のとおり、被告乙は、二二日午前一〇時ころの原告藏冨からの電話が接見の申出に関するものであることを知り、電話の受話器を数分間取らないうちに、電話が何らかの原因で切れてしまったにもかかわらず、原告藏冨の接見申出の内容をB事務官から確認しないで放置し、その後、正午前に昼食のため外出し、午後一時過ぎに地検支部に戻った際に、B事務官から被告乙外出中の正午前に原告藏冨側から接見申出に対する回答を催促された旨の報告を受け、ようやく、訴外被疑者の取調べ予定について調査を始め、取調べ主任警察官が不在で連絡がとれなかったため、そのまま原告藏冨からの接見申出には回答をしないまま放置し、被告乙から一切回答がないため午後二時三〇分になって原告藏冨が再び地検支部に架電して回答を促した際に、被告乙は初めて同接見を拒否する旨回答をしたものである。かかる被告乙の措置は、接見交通権の前記重要性、接見希望日が申出当日のものであったという緊急性に鑑みると、接見の申出を受けた検察官に求められる前記の配慮を全く欠いたものであったというべきである。しかも、二二日に実施された訴外被疑者に対する実際の取調べが、同日午後三時二〇分から午後三時五〇分までと午後四時から午後四時三五分までの間になされたに過ぎなかったこと(〈書証番号略〉)と原告藏冨の希望する接見時間は、同日午後三時から午後五時までの間の一五分であったことを対比すれば、接見を調整して指定することは十分可能であったことが推認されるにもかかわらず、既に事件送致をうけて訴外被疑者の捜査については権限ある捜査官である筈の被告乙が、弁護人の接見を認めたのでは取調べが予定どおり開始できなくなる点について何らの主張立証も行わないので被告乙の右一連の対応及び二二日の午後二時三〇分ころに原告藏冨の同日の接見を拒否した行為は、前記の検察官の採るべき適切な措置を怠った違法なものであるといわざるを得ないものである。

3 原告藏冨の二四日の接見申出に対する被告乙の措置の違法性

前記のとおり、被告乙が、二二日午後二時三〇分ころに原告藏冨から電話で催促されるまで、同原告の接見申出に対して連絡や回答を一切行わなかったという措置は、接見申出を受けた検察官に求められる配慮を欠き、適切な措置を採るべき義務に違反するものであったこと、二二日午後二時三〇分ころの時点では、二四日に訴外被疑者を取り調べる予定は入っていなかったことが判明していたこと、訴外被疑者は二一日に勾留理由開示請求がされ、二四日午後二時に右理由開示期日が定められ(〈書証番号略〉)、被告乙としても通常の場合以上に今後の捜査について一定の予定と方針が立てられている筈であったこと、二三日は祝日(勤労感謝の日)であること等の事情を総合すれば、原告らの接見希望日が二四日であり、二二日の午後二時三〇分ころの時点においてはまだしばらく時間的に余裕があるものの、二二日二時三〇分ころの時点において、被告乙は直ちに、原告の申出どおり接見を認める旨回答し、又はこれに対応する接見指定をするか、やむを得ずその時点で判断ができない場合は、遅くとも二二日中の夕方までの一定の時間に二四日の接見指定をするか否かを被告乙の側から再度連絡、回答する旨告げ、原告らの接見申出に対する回答を必要最小限の時間留保することを明示し、それまで待機するよう要請しておくべき義務があると解するのが相当であるから、これに反し、二四日の朝に再度原告らから連絡して欲しい、そのときに接見の可否を回答するとの返答に終始し、結局その時点までは接見指定をせず、二四日の朝に原告らから連絡があるまで回答を行わないという措置をした被告乙の行為は、前記の速やかに適切な措置を採るべき義務に違反する違法なものであるというべきである。

4 原告鈴木の二四日の接見申出に対する被告乙の措置の違法性

二二日午後一時ころまで原告鈴木の二四日の接見申出への対応をせず、同日午後二時三〇分ころに至っても原告鈴木への接見指定をしなかった被告乙の措置が違法であることは3と同様である。

また、二二日午後五時二一分に原告藏冨に対して二四日の接見指定をしながら、原告鈴木に対して接見指定をしなかったことには何ら合理的理由がなく、原告鈴木の地検支部への電話による問い合わせに対しても、原告鈴木への接見指定をする旨の回答を一切しないまま同日午後一一時五九分まで接見指定を遅滞し、さらに、接見指定書を無人の原告鈴木の事務所へファクシミリで送付し、原告鈴木には何の連絡もしなかった被告乙の行為は前記の適切な措置を採るべき義務に反し、違法なものであるというべきである。

五故意・過失

被告乙が、二二日午前一〇時ころから原告藏冨から接見の申出があることを知りながら、同日午後一時ころまで原告両名の接見申出に対する対応を何ら行わないまま放置したうえ、同日午後二時三〇分ころに原告藏冨の二二日の接見を拒否し、二四日の原告両名の接見指定を行わなかったことは、先に四の1で認定した接見指定に際して捜査機関に対して求められる義務並びに同じく三の1の(一〇)以下で認定したとおり二四日の両原告に対する接見指定がいずれも原告らの準抗告の申立後に容易になされていること及び原告鈴木を排除して原告藏冨のみに接見指定した経過と対比判断すれば、故意ないしは少なくとも重大な過失があると認定するのが相当である。

六損害

1 原告藏冨は、前記四の被告乙の一連の違法行為により、同三のとおり二二日に訴外被疑者と接見することができなくなり、弁護人の接見交通権を侵害され、訴外被疑者に勾留理由開示手続の説明ができず充分な弁護活動ができずこれにより精神的苦痛をこうむったことが認められ(原告藏冨本人)、原告藏冨は、被告国に対して右接見ができなかったことによる損害の賠償を求めうるところ、右損害は二〇万円と評価するのが相当である。なお前記認定のとおり右接見は、共同弁護人である原告鈴木の指示に基づくものであるが、右被告乙の違法行為と相当因果関係を有する損害は、二二日の接見を申し出た当該弁護人たる原告藏冨の被る損害によって評価するのが相当であるから、右違法行為により、原告鈴木も損害を被った旨の主張は理由がない。

2  また、原告藏冨は、二二日午前一〇時ころ地検支部に電話を架けた後、同日午後五時二一分に二四日についての接見指定書を受け取るまでの間、被告乙の違法行為により、徒に同人からの回答を待たされ、さらに結果として、不必要な準抗告申立てを余儀なくされることになったことにより、前同様精神的苦痛を被ったことが認められるところ、右遅滞があったものの、二四日の接見は結果的には実現できたことを勘案すれば、右遅滞による固有の損害は三万円と評価するのが相当である。

3  原告鈴木は、被告乙の違法行為により、二二日午後六時ころに事務所に戻ったときに自分に対する二四日の接見指定がなされていないことを知ってから、二四日午前に接見指定書がファクシミリで送付されていることを認識するに至るまで原告藏冨と特段の合理的理由なくして差別され、結果として不要な準抗告の申立てを余儀なくされたことにより、精神的苦痛を被ったことが認められるところ(原告鈴木本人)、右遅滞があったものの、二四日の接見は結果的には実現できたことを勘案すれば、右遅滞による固有の損害については三万円と評価するのが相当である。

また、原告鈴木は、法律事務所の経営者として、原告藏冨がなした準抗告の申立書を地裁支部に提出するために、訴外葛谷が原告鈴木の事務所と地裁支部とを往復した交通費として四六三〇円を支出したものであり(証人葛谷、原告鈴木本人)、右金員は被告乙の違法行為によって生じた損害として賠償を請求しうるものである。

七結論

よって、原告らの請求のうち、同人らの接見申出に対する被告乙の違法な措置によって被った損害の賠償として、被告国に対して、原告藏冨については二三万円の、原告鈴木については三万四六三〇円の支払いを求める限度で理由がある。

第二侮辱行為について

一1  請求原因5(一)(1)の事実は当事者間に争いがない。

2  証拠(〈書証番号略〉、証人葛谷、原告鈴木本人、原告藏冨本人)によれば、被告乙は、昭和六三年一一月二五日午前一一時四五分ころ、原告鈴木に対して電話を架け、乱暴な口調で、請求原因5(一)(2)記載の言葉を言ったことが認められる。もっとも、被告乙本人は、普通の口調で勾留に対する準抗告の要件を告げたと供述するが、通常そのようなことを原告らの事務所にわざわざ架電して告げるべき事柄であるとも考えられない上、被告乙は、右電話をするにあたり準抗告に対して相当感情的になっていたことが推認されるので、右被告乙の供述を信用することはできない。

3  証拠(原告藏冨本人、検証の結果)によれば、請求原因5(二)の事実が認められる。これに反する被告乙の供述は、右検証の結果に照らして採用できない。

二右被告乙の電話での発言の内容は、確かに原告らの弁護士としての活動、能力を誹謗し、あるいは揶揄する内容をも含むものであって、それぞれ原告らに不快な感情を抱かせたものと認められる(原告ら本人)。しかし、右発言はそれぞれ一対一の電話でのやりとりの中で行われたものであり、これにより原告らの社会的名誉が傷つけられたことはなく、また原告らの名誉感情の侵害の程度においても、原告藏冨に対する発言については、録音テープの検証の結果によれば、原告らによる本件国家賠償請求に対して皮肉を述べる程度のものであって、未だ不法行為を構成する程度の違法性は認められず、また、原告鈴木に対する発言についても、法律家同志の議論であることを考慮してもいささか相手方に対する礼を失するもので、発言の適切さ、相当性を欠くものということはできるが、不法行為が成立するに足りる違法性を有すると認めることは未だできない。

従って、被告乙による右発言に基づく損害賠償請求は認められない。

第三被告乙個人の責任について

公権力の行使に当たる国の公務員がその職務を行うにつき故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国がその被害者に対して賠償の責に任じ公務員個人はその責任を負わないと解すべきである(最高裁昭和三〇年四月一九日第三小法廷判決・民集九巻五号五三四頁等)。

公務執行の適正を担保するために、公務員に故意又は重過失が有る場合に公務員個人の賠償責任を認めるべきであるとする見解もあるが、右目的は、国又は公共団体による公務員への求償、懲戒処分により達成できるものであり、右見解は採用できない。

よって、被告乙に対する請求はいずれも失当である。

第四まとめ

以上によれば、原告らの本訴請求は被告国に対して原告藏冨が二三万円の金員、原告鈴木が三万四六三〇円の金員、及びそれぞれこれに対する不法行為の日である昭和六三年一一月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書及び九三条を、仮執行宣言及びその免脱宣言につき同法一九六条一項及び三項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官生野考司 裁判官鈴木芳胤裁判長裁判官笹本淳子は、転補につき署名捺印することができない。裁判官生野考司)

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